しあの巣

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手紙を書きたくなる本『恋文の技術』森見登美彦

#書簡体小説

恋文の技術

恋文の技術

 「あしながおじさんのように手紙形式で書かれている」と書こうと思って調べたら、こういうタイプの小説は「書簡体小説」と言うらしい。勉強になった。
 本作は、能登半島の実験所に飛ばされた主人公・守田一郎が研究室の先輩後輩、妹、家庭教師先の男子生徒、はたまた旧友の森見登美彦にまで手紙を送りつけて文通武者修行をするというストーリーだ。読者からは主人公の送った手紙しか読めず(つまり、返信は読めない)、その上、一章で半年間1人の相手への手紙を見たら、次の二章ではまた同じ半年間を別の相手への手紙で垣間見る、といったある意味ループ物チックな構成になっている。こう書いてみると読者側の制約が大きく難しそうに見えるが、守田一郎君の文章力は素晴らしい。相手がどう返信したのか予想がつくように書かれていて、いきいきとした情景が浮かび上がってくるような手紙となっているので問題ない。
 森見登美彦ペンギン・ハイウェイに続いて二冊目だが、こちらは特に文体の軽妙さが際立っているように感じた。クスリと笑わせてくる書き方、テンポの良さ、言葉の選び方が上手く、読んでいて楽しい文章になっている。構成で言うと、大筋は変わらないものの情報が少しずつ明らかになっていくというループ物の醍醐味が味わえる面白さもある。
 読み終わった後、タイトルに納得できる小説はいい小説だと思う。これはそんな話だった。