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しあの巣

読書やゲームや美術館めぐりなどの日々の記録

『時間的無限大』スティーヴン・バクスター著、小野田和子訳

★★★☆☆ 読書

#タイムマシン #量子論

時間的無限大 (ハヤカワ文庫SF)

時間的無限大 (ハヤカワ文庫SF)

 本書を読んだきっかけはよく覚えていない。イーガン以外のハードSFを読みたくて読みたい本リストからピックアップした覚えはあるんだけど、そもそもどこで知ったのか思い出せない。ド嬢だろうか?分からないけれど、目的通りハードSFの醍醐味はがっつり味わうことが出来た。
 時間的無限大は、ワームホールによるタイムトラベル物かつ、宇宙から到来した支配者クワックスに対抗する人類を描いた物語だ。こう書くだけでも中々重たそうだが、さらに「ウィグナーの友人」なる謎の宗教団体、宇宙船として発達した生命体スプライン、謎に満ちたクワックスの生態、等々SF的要素がぎっしり詰め込まれている。
 ハードさについて付け加えておくと、物語の核となるワームホール論や「ウィグナーの友人」については相対性理論量子論を全く知らない場合読んでもよく分からないと思う。本作に出てくるワームホールは理論的に可能なタイムマシンらしいのだが、実際私は相対性理論について全く知らない状態で読み、ワームホール周りの話が全然わからなくて苦しかった。対して「ウィグナーの友人」については、量子論の絵本(NEWTON)を読んでいたのが幸いして比較的理解できたように思う。
 そんなわけで、本書で一番面白かった部分は「ウィグナーの友人」の思想だった。彼らはクワックスの支配下にある地球から密かに脱出し、木星にあるワームホールを通って1500年前の太陽系に向かったのだけれど、その目的を探ることも本書の醍醐味なのでここでは省略しておく。ただ、この「ウィグナーの友人」という名前には由来があるのでそれだけ紹介する。
 これは「シュレーディンガーの猫」を発展させた思考実験だ。まず密室の中にシュレーディンガーの猫セットを置き、ウィグナーの友人に猫の生死を観測してもらう。ここまではシュレーディンガーの猫と変わらず、ウィグナーの友人が箱を開けた瞬間に猫の生死が確定するとしよう。では、ウィグナーの友人が密室の外に出てウィグナーに猫の生死を伝えたとき、ウィグナーにとって猫の生死が確定する瞬間はいつなのだろうか?友人から猫の生死を聞いた瞬間だとすれば、ウィグナーにとって密室がシュレーディンガーの猫と同じ状態になる。このようにして観測者は無限に増えることが出来る。
 「ウィグナーの友人」はこれを宗教的教義にまで発展させる。その論理展開には飛躍があるものの、この思考実験からある程度筋の通ったものを導き出す過程がとても面白かった。