お伽話?いいえ、風刺小説です『ガリヴァー旅行記』スウィフト、平井正穂訳
#風刺小説
- 作者: スウィフト,Jonathan Swift,平井正穂
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1980/10/16
- メディア: 文庫
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お伽話としてのガリヴァー旅行記は「小人の国(リリパット国)」「巨人の国(ブロブディンナグ国)」で止まってしまうようだが、原作ではその後にも「ラピュータ、バルビバーニ(飛ぶ島)」「グラブダブドリッブ(死者を蘇らせる国)」「ラグナグ(不死者の国)」「日本」そして「フウイヌム国(馬の国)」へと旅している。前述の通り、本書は延々と風刺が続いて段々うんざりしてくるのだけど、「フウイヌム国」では、人間の入ることが出来ないユートピアを描いていて面白かった。
フウイヌム国は理性を持った馬が支配する国で、人間は「ヤフー(yahoo)」と呼ばれ野蛮な家畜として扱われている。対して馬はどこまでも理性的で、
これらの気高いフウイヌムたちは、あらゆる美徳を好むという先天的な性質を生来与えられており、したがって、いやしくも理性的な動物に悪が存在するということは、とうてい考えることも見当もつかないのである。(p.379)
と評されている。ヤフーの方はというと、人間が家畜になっているのだから奴隷のような状態…というわけではなく、かなり猿に近い。しかしフウイヌムによって主人公ガリヴァーの語る人間社会と、野蛮なヤフーの社会が似ていることを指摘されると、ヤフーとは人間の本質であるということを読者は察することが出来る。そしてガリヴァーは理性の塊のようなフウイヌムを崇拝し、ここでずっと暮らして思索にふけりたいなどと考えるようになった。
しかしガリヴァーはこの楽園を追い出されることになる。フウイヌムの会議でガリヴァーを飼っていた主人が「野蛮な動物であるヤフーを家人同然に扱っているのはけしからん、家畜として扱うか追放すべき」と言われ、結果的にガリヴァーはこの国から追放されてしまう。美しく気高い心を持った者達の国に、ガリヴァーは永住することが出来なかったのだ。その後イギリスに戻ってからはヤフー同然の人間社会が完全に嫌になってしまい、家族ともなるべく会おうとせずにひたすら馬小屋で馬を眺める人となってしまう。
どこまでも理性的なフウイヌムを畏敬するまではいいのだが、結果的にとても理性的な人間とは思えない行動を取っているのは皮肉が上手く効いていて良かった。他の話も同様に人間社会への皮肉が盛りだくさんで、スウィフトの着眼点の鋭さが光っていた。出版から290年ほどたった今でも通用するものがあり、流れる時に耐え抜いてきた古典の重みというものも感じた。そして、疲れた。