しあの巣

読書やゲームや美術館めぐりなどの日々の記録

『マジック・キングダムで落ちぶれて』コリィ・ドクトロウ

#SF #不死

マジック・キングダムで落ちぶれて (ハヤカワ文庫SF)

マジック・キングダムで落ちぶれて (ハヤカワ文庫SF)

マジック・キングダム (Magic Kingdom) は、アメリカ合衆国フロリダ州オーランドのウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートにある4つのディズニーパークの内の1つである。

というわけで、タイトルの「マジック・キングダム」とはディズニーランドのエリアのことであり、物語の舞台もディズニーランドである。
そんな舞台で主人公たちが何をやるかというと、ホーンテッド・マンションをより良くするために日々頑張っている。例えば回転率をよくするための工夫を凝らしたり、並んでいる客を飽きさせないための物を置いてみたり。
そこにSF要素はないように見えるが、この世界では人間のバックアップが取れるようになっており、実質的に不死が存在している。また、労働の必要はなくなった世界なので貨幣ではなく人々の尊敬点である「ウッフィー」が通貨のようなものとなっており、人々から尊敬されるようなことをするとポイントが貯まっていき、ご飯が買えたりする。主人公はそんなSF的世界でディズニーランドのアトラクションの改良のため、日々活動している。

こんな設定だけでも魅力的だが、それ以上に人間ドラマが面白い。根底にあるのは、「不死が実現した世界で人はどう行動するか?」ということなのだと感じたが、見えているのはディズニーランド内の派閥争いである。不死で、時間をもてあましている人達のアトラクションへの情熱、そして派閥を拡大していこうという動き。自分たちの領土を守ろうとする人たち。そんな人間くさいドラマを見ていくうちに自分も一緒にドキドキハラハラしてとてもおもしろかった。

SFだから、という設定上の面白さだけではなく、ストーリーも素晴らしい一作。残念ながら絶版となっているが、2005年出版の本なので図書館には置いてあることが多い。また、amazonで1.5k(2016/11時点)なので手に入れることも出来る。興味があれば、ぜひ読んでいただきたい物語だ。

『流れ星が消えないうちに』橋本紡

#恋愛小説?

流れ星が消えないうちに (新潮文庫)

流れ星が消えないうちに (新潮文庫)

誰かに薦められて、たまにはこういうものも読んでみるかと思いながら買った覚えがある。

たぶん、この話を求めているときに読めば切なくて苦しくなるのだろうとぼんやり思いながら読み終えた。人が死ぬということにそこまでの感傷を感じていない今はうまく寄り添えなかった。考えたくないともいう。

それはそれとして、重松清の解説がすごくよかった。作品の構造を解説しつつ、自分の感じたことを絡めているうまい文章だった。解説にここまで「おお、うまい」と思うのは初めての経験のような気がする。重松清の作品を読みたくなった。

『カラヴァッジョ巡礼』宮下規久朗

#バロック #カラヴァッジョ #イタリア

カラヴァッジョ巡礼 (とんぼの本)

カラヴァッジョ巡礼 (とんぼの本)


カラヴァッジョの絵があるイタリアの美術館や教会を、カラヴァッジョの足跡に沿って巡ってみた本。そんなわけでカラヴァッジョ巡礼。

カラヴァッジョの絵に宗教画というイメージがないので、あの絵が教会に飾ってあると聞くと大丈夫なんだろうかと思ってしまっていた。だけどそんな心配は無用で、カラヴァッジョの絵はリアリティのある、迫力のあるイメージを作り出すので…奇跡が目の前で起こっているかのような幻想を生み出すことができる。意外と教会にはぴったりなのであった。奇跡を顕現させるカラヴァッジョ本人が奇跡のようなものだとも思う。イタリアに行って、有るべき場所にある絵を見たくなった。

本とは関係ない話。以前香川の金比羅山に行ったとき、たまたま奥書院が公開されていたので中まで入って襖や天井や壁やいろいろなところに描かれた絵を見る機会に恵まれた。その場所のために描かれた絵を見るのは初めてだったのだけど、あるべき場所にあるべきものがあるというのはこれほど良いものなのかと感動したことを強く覚えている。
その場所でないと見られない…ということが重要なのではなく、絵以外の要素も鑑賞する上で重要なのだということが肌身にしみてよくわかった。だからきっと、美術館で観ても素晴らしかったカラヴァッジョの絵を教会で見るととんでもないのだろうなと思う。いつか行ってみたい。

速水御舟展 in 山種美術館

#日本画 #南画 #やまと絵
山種美術館で開催中の速水御舟展に行ってきた。

【開館50周年記念特別展】 速水御舟の全貌―日本画の破壊と創造― - 山種美術館


速水御舟は明治末期〜昭和期に活躍した日本画家。私は日本画のことは殆ど知らず、琳派を「りんぱ」と呼ぶことすらつい先日知ったような有様だがとても楽しめた。

予習にはいつものようにもっと知りたいシリーズ『もっと知りたい速水御舟』を読んでから参戦。ところで今回の展覧会の特徴としては、重要文化財指定の「炎舞」「名樹散椿」の両方が見られるということがあげられる。他の代表作も概ね観ることが出来るので、予習した絵画が目の前にある!!という体験ができる。西洋の有名画家なんかだと大抵予習しても好きな絵は見られないので、今回先に見て気になっていた絵(翠苔緑芝、名樹散椿など)を実際に見られたのはとても幸福だった。

御舟の絵をみて、やはり日本画は馴染み深いなということをつくづく感じさせられた。
ここのところ西洋画ばかり目にしていて、日本画を真面目に見るのは随分久しぶりだった。西洋画は『鑑賞のための西洋美術史入門』を読んだり、ダリやカラヴァッジョの絵を見たりと積極的に知識を得ようとしていた。日本画についてはようやく『もっと知りたい速水御舟』を読んだというところで、日本美術史については全くの無知である。
だけど、日本画は馴染みやすい。西洋画はどうしてもキリスト教の影響が根強く、根底に知識がない私には馴染みにくいところがあるが、日本画は知識がなくとも美しさを感じることが出来る。日本人は昔から花鳥風月を愛でるというけれど、身に染み付いた文化なのだろうか。予備知識が乏しくても、これは美しいものだと率直に感じられた。そういった心を自分が持てることに安心して、絵に心を委ねることができた。いい美術体験ができた。

大正14年〜昭和4年の絵はどれもこれも素晴らしいものばかりだったのだけど、中でも『翠苔緑芝』(すいたいりょくし)が特に好みの一作だった。翠苔緑芝は猫がいる!!ということで猫好きの私は展覧会に行く前から期待していたのだけど、実際に見てみるとその世界観に吸い込まれるようで素晴らしかった。
猫が木の麓に佇んでおり、兎もそれとなく存在するという一見よくわからない絵なんだけれど、見れば見るほど不思議になってくる。まず木が妙に平面的で、立体感がない。デフォルメされて生命感のない世界の中でどこかを睨む猫、こいつがまた可愛い。あまりにかわいいので山種美術館のキャラクターと言わんばかりにお土産屋にたくさんいる。妙ちくりんな世界の中でぼんやりしている猫と兎、そして立体感のない木々がある意味理想形のようで屏風の中に完成された世界を感じた。取っていたメモには「楽園」などと書いてある。そのような美しさを持った一作だった。

好きだった作品は「萌芽」「山科秋」「洛北修学院村」「鍋島の皿に柘榴」「桃花」「墨竹図」「牡丹(大正15)」「樹木」「沙魚図」「木蓮(春園麗華)」「翠苔緑芝」「名樹散椿」「春池温」「暗香」「あけぼの・春の宵」「牡丹花(墨牡丹)」「白芙蓉」「円かなる月」といったところ。多い!
特に好きなのは「翠苔緑芝」「名樹散椿」「暗香」「白芙蓉」か。翠苔緑芝と名樹散椿がツートップ。好きな絵が多く本当に幸せな展覧会だった。

『会話がとぎれない!話し方66のルール』野口敏

#コミュニケーション #自己啓発

誰とでも 15分以上 会話がとぎれない!話し方 66のルール

誰とでも 15分以上 会話がとぎれない!話し方 66のルール


小手先のテクニックだけでなく、会話において意識しておいたほうがよいことも絡めて書いてあるのでよかった。
テクニックは割りと実践的で真似できそう。印象に残っているのは以下の点。

・相手が話したいことを話させる
 ・相手の気持ち(そのときどう思ったか?
・自分の情報は少し公開しつつでもやっぱり相手に話させる
・話のネタをストックしておく

一回読んで頭に入れるというよりは何度も周回してその度に自分の血肉にしていく本かなあ。雑談するスキルに関して問題意識がある人にとってはかなり良い本だと思う。

『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』吉田尚記

#コミュニケーション #自己啓発

タイトルはあまり本書の内容を表していない。「コミュ障の私よ、サヨウナラ」という題でニコニコ生放送を行っていたものの再構成としての本らしいが、そちらの方がより内容に即していると思う。コミュ障が雑談できるようになるための手引書。
ちなみに、この本でいう「コミュニケーション」はあくまで雑談など特に目的を持たない(コミュニケーション自体が目的の)コミュニケーションであって、議論・説得・説明など他の目的を持ったコミュニケーションは対象としていない。

本書の主張としては、
①コミュニケーションの目的はコミュニケーション
②コミュニケーションは協力型のゲーム
③コミュニケーションには定石がある

などというものがあげられる。主に「コミュニケーション恐るるにたらず」ということを優しい語り口で伝えてくれる本なので、ある程度コミュニケーションゲームのルールを分かっている人は読まなくていいと思う。雑談が苦手、とか自分はコミュ障だ、とか思っている人向けの本。

読んでいて一番しっくり来たのが、「相手の話したいことを話させてあげる(と、楽しく喋れる)」という部分。

先程あげた本書の主張と絡めていくと、
①コミュニケーションの目的はコミュニケーション
 ⇒情報伝達が目的ではないので、自分のことを無理に話す必要はない
②コミュニケーションは協力型のゲーム
 ⇒「楽しくコミュニケーション取れている」という状況を作ると相手・自分ともに勝利
③コミュニケーションには定石がある
 ⇒相手に話させると、相手が楽しくなりやすいので楽に勝利条件を満たせる
 ⇒相手に楽しく話をさせるためには、相手が何を話したがっているか察する、どういう方向に会話を転がしていけばいいかなどなど定石を覚えていく
といった感じ。
特に、「相手が何を話したがっているか察する」という部分が自分は出来ていなかった。飲み会など雑談をしなければいけない場面ではいつも緊張して場の方向性を読むとかそういうことは全く頭にない状態だった。会話の方向性を見定めれば大分楽にコミュニケーションできる気がする。

コミュニケーションは所詮ゲームだとか、相手に話させればいいとか、コミュ障の自分には分かっていなかったルール・定石がいろいろと知れたのでとても良かった。この本を最初の一歩として雑談コミュニケーションに怯えずに済む自分になっていきたい。

『旅のラゴス』筒井康隆

#旅行

旅のラゴス (新潮文庫)

旅のラゴス (新潮文庫)

筒井康隆は『パプリカ』だけ読んだことがあって、私には筒井康隆は向いてないのかもしれない…と思っていたが表紙と評判の良さに惹かれて旅のラゴスを読んだところすごく好きな雰囲気だった。最近は『ガリバー旅行記』だの、『泰平ヨンの恒星日記』だの旅行記をいくつか読んだがその中では一番好き。
旅行記の好きな部分として、様々な世界を見て周るという要素があるんだけど、旅のラゴスはそれに加えて旅の出会い・別れの喜びと切なさがあり、その雰囲気がとても良い。「ああ、この地にはもう二度と来ないのかもしれない」と感じながら読むとラゴスの旅を追体験しているようで心地よかった。