しあの巣

読書やゲームや美術館めぐりなどの日々の記録

『砂漠の惑星』 by スタニスワフ・レム

#SF #ファーストコンタクト #宇宙進出

 原題は『無敵号(Niezwyciężony)』なのだが、内容は「未知なるものに対して、人類は無敵ではない」というストーリーであり中々皮肉が効いている。
 レムを読むのは『ソラリス』に続いて二冊目。擬人的でない地球外生命体*1を描くのがとんでもなく上手いなあと思った。砂漠の惑星では謎の物質<黒雲>が地球外生命体として登場するのだが、<黒雲>とコミュニケーションを図ることはできないし、<黒雲>に意思があるのかもよくわからない。それどころか一方的に攻撃される始末だ。人類も無力なわけではない。既に様々な惑星の探索を行ったことのある宇宙飛行士ばかりだし、装備に関しても万能車、目に見えない防御バリアやレーザーを放つことのできる偵察用飛行機、高温高圧・高放射線量にも耐え反物質放射砲を備えた強力な戦車キュクロペスなどと充実している。だがそんな「無敵号」の乗員も、<黒雲>に対してはなすすべもなく攻撃され、次々に仲間を失ってしまう。
 もちろん<黒雲>の攻撃が対処困難なものだったからこそやられてしまったのだが、そもそも人類の側にも驕りがあった―ということに段々気付かされていくのがこの話の醍醐味。もし最初から<黒雲>の脅威を認識できていたなら、おそらくこのような話にはならなかっただろう。まあ、認識できないから「無敵号」なのだが。
 強力な力を持っていながら謎に満ちた物質<黒雲>の謎が少しずつ明らかになっていく様も面白かった。おそらくこの文章を読んだ人は相当擬人的な<黒雲>像を思い浮かべるだろうが、実態は異なっている。地球外生命体へのイメージを書き換え、技術力への信仰を揺るがす物語だった。

*1:正確には黒雲を生命体とは言えないのだろうが、他に適当な言葉を思いつかないため地球外生命体と呼ぶ。