しあの巣

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ラノベっぽいヒューマノイドSF『スワロウテイル人工少女販売処』籘真千歳

#SF #JSF #ライトノベル #ヒューマノイド

スワロウテイル人工少女販売処 (ハヤカワ文庫JA)

スワロウテイル人工少女販売処 (ハヤカワ文庫JA)

 読みたい本リストを眺めながら某ペンギン氏が読んでいたなあと思いつつ図書館で借りてきたところ大当たり。いやあ楽しいラノベだった(良い意味で)。裏面のあらすじは読み終わってから見るとコレジャナイ感がすごいのでこれから読む諸氏は参考になさらぬよう。確かにヒューマノイドSFだとは思うけど、共生要素はあんまりない。
 人間そっくりのアンドロイド「人工妖精(フィギュア)」が人間と一緒に暮らしてるってのが本作の一番大きな設定だからヒューマノイドSFということになると思う。ただし人工妖精の意識発生や、人間が受け入れられるかどうか、みたいな問題にまでは踏み込んでいない。
 <種のアポトーシス>という病気の蔓延によって感染者は男女別々で浮島に棲むことになり、異性がいない代わりに人工妖精があてがわれている―という世界で人工妖精を伴侶とする人も多く、彼ら彼女らは物語開始以前に社会に溶け込んでいる。人工妖精の人権に関する法整備は遅れているようだが、少なくとも主人公揚羽の周りの人間たちは、人工妖精と人間とを比較的対等に見ているように感じた。
 と世界設定を述べると結構がっつりした重たいSFのように見えるけれど、全然そんなことはなくてむしろノリは軽くてラノベ風味だ。揚羽がアホの子じみてるというのもあるけど、設定を活かしつつ脱線しない巧さが凄い。世界設定以外にも人工妖精の性格や倫理観・外観、街中を飛び交う蝶形のマイクロマシン、多脚戦車に影響されたであろう〇六式無人八脚対人装甲車(トビグモ)などなど様々な設定がどっさり詰め込まれている割に、それらは主役を張らない場所ではアクセントとしてうまく効いているだけで出しゃばってこない。なおかつメインになるところでは「あの設定がこんな風に活かされるのか!」と思わず唸らされる。楽しい。一言でいうと設定が格好良くて伏線回収が上手く盛り上がるということになるだろうか。
 そんな感じでべた褒めの本作だが残念なところを一つあげると、第二部終了後から第三部のラストスパートに入るまでが長く感じるということだ。この部分の構成は微妙だったが、第三部のラストは非常に盛り上がって良かった。ウーンその論理展開は微妙に怪しくないか、と思いつつもまあいいかと思えるくらいの瀬戸際を進んでいくのはとても楽しい。
 揚羽のことについてほとんど触れられなかったので最後に少し書いておくと、自称ぽんこつだしアホの子じみてるけど頑張り屋さんで、言動が可愛い主人公。キャラが立ってるのがラノベっぽさの一因にもなっている。
 キャラも可愛いし設定も上手いし読んでいてとても楽しい話だった。次作絶対読む。