しあの巣

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『夜魔―奇―』甲田学人

#ライトノベル #ホラー #メルヘン

夜魔―奇 (電撃文庫)

夜魔―奇 (電撃文庫)

甲田学人先生の原点と言える短編集。ペアとして夜魔―怪―(怪奇性強め)もあり、こちらは幻想性の強いもの。”向こう側”を感知できてしまう人々が小さな魔女・十叶詠子や”夜闇の魔王”神野陰之と出会い、”向こう側”に対してのあり方を変えていく―と言うとあまり正確でない気もするが、大体そんな話。彼らの五感で見る世界はグロいものとか気持ち悪いものとかおぞましいものなんかが跋扈しておりとても恐ろしいのだが、同時に幻想的な、人間の力ではどうしようもないような超然としたものの力を感じることが出来る。怖いけど美しさも感じると言った雰囲気の作品。ラノベだけどラノベには思えない。
『Missing』の外伝として見ると、あの”魔女”十叶詠子がすごく純真でひ弱でいい人に見えるのがすごく違和感。何も企んでいない状態で向こう側見える同士として接するといい人に見えるんだろうか?
以下短編ごとの簡単な感想。

罪科釣人奇譚(トガツリビトキタン)

甲田先生が初めて書いた小説・かつ第7回電撃ゲーム小説大賞の最終選考に残り作家デビューのきっかけとなった話。これが最初の作品とは知らなかった。
”映すもの”は境界であるという発想がとても綺麗で、しかもその中には幻想の魚が棲んでいる―なんて美しい設定だろうか。まあ魚は人の目玉とか口とかくっついていておぞましい醜貌なんだけど。この時点から”魔女”十叶詠子と守護者としての神野陰之は存在していたようだ。

薄刃奇譚(ハクジンキタン)

ぎちぎち系短編。読みながら苦い顔をしてしまうこと間違いなし!

魂蟲奇譚(コンチュウキタン)

この世のものではない蟲が見えてしまう少年に対してまともな忠告をする老人が出る回。甲田作品的には老人がトラウマを与えないというだけでレアなのにその上有能である。すごい。
少年が気づいてはいけないことに気づいてしまうシーンと、そこから坂を転がり落ちていくのが好き。

桜下奇譚(オウカキタン)

幻想よりな―奇―の中でも一番幻想寄り。人を喰う桜が登場。さてさてなんで人を食べるんだろうね?という問いに対する甲田先生なり解釈が見れて面白い。まあ甲田作品には特に意味もなく食い散らかしていくやつもいっぱいいますが

現魔女奇譚(ユメマジョキタン)

十叶詠子の原点。Missingでは謎多き存在としてしか描かれていなかったから、純粋な詠子に新鮮味があった。