しあの巣

読書やゲームや美術館めぐりなどの日々の記録

『ねじまき少女』パオロ・バチガルピ著, 田中一江・金子浩訳

#SF #バイオロイド #東南アジア

ねじまき少女 上 (ハヤカワ文庫SF)

ねじまき少女 上 (ハヤカワ文庫SF)

ねじまき少女 下 (ハヤカワ文庫SF)

ねじまき少女 下 (ハヤカワ文庫SF)

 なかなか味わえないタイプの面白さがある話だった。石油は枯渇し、遺伝子操作されたゾウムシによって世界的に生態系破壊が進み、超スピードで変異する病原体が存在して人類の数は激減し…と文明は進歩するどころか退化している世界で、病原体から国を守るために鎖国状態にあるバンコクが舞台。群像劇としてバンコク内で生活する様々な人の生活が語られる。
 面白かったのは群像劇としての性能の高さ。主人公級の人が5人に重要人物がその倍くらい居てややこしさはあるんだけど、物語を貫く大きな流れを各々の立場から観測する…という構成の巧さがとても良かった。世界観も直接は明らかにされず、最初はおぼろげだった設定がだんだんと焦点の合ったものになってくる。なので最初は分かりにくいし終盤になっても人間関係が複雑で分かりづらかったりする。
 ただ、SFとして読んだときには自分の求めるところと違うかなあという感じ。遺伝子操作が非常に発達しているようだが、近未来的な設定としてはそのくらい。自分はSFに対し文明の発展!という格好いい要素を求めていたんだなあと少し思った。あとは環境問題に興味がないとか、群像劇がそこまで好きじゃないとかそういう部分もある。
 ただまあ、設定が難しかったのと読みが足りなくてよく分かってないことが原因であまり楽しめなかった―なんて可能性はかなりありそうなので、機会があれば再読したい。